ガイドブック:サッカーと音楽

ワールドカップ開催を祝い、スタンドでおなじみの定番ソングから、選手の名前が歌詞に刻まれた楽曲まで、サッカーと音楽が交差する魔法のような瞬間を深掘りしよう。

ファンのお気に入り

サッカーと音楽が初めて出会った場所、それはスタジアムの観客席だ。19世紀後半以降、イングランドではファンが一丸となって、歌を通して自己表現してきた。スタジアムで大合唱されるチャントには、その核心に共通する重要な要素がある。それは、人々の心を結ぶメロディだ。歌詞は新しいかもしれないが、メロディはヒットチャートや往年のフォークソングから引用されている。大ヒット曲と同じように、最高のスタジアムアンセムは世界中に広まっていく。ザ・ホワイト・ストライプスの「Seven Nation Army」は、最初にベルギーのチームであるクラブ・ブルッヘのファンがチャントとして歌い始め、2006年にASローマのサポーターによってイタリアに持ち込まれた。その夏にイタリアがワールドカップで優勝する頃には、国中の人々が同曲のギターリフに合わせ、歌詞もなく大合唱していた。それ以来、あの曲はもはやザ・ホワイト・ストライプスの曲という枠を超えてしまった。サッカーソングになったのだ。

公式/非公式アンセム

大規模な国際大会を前に、多くの国が公式アンセムの制作を依頼するが、時にサッカー協会とはあえて距離を置いた曲が国民のムードを捉えることもある。例えば「Three Lions」の歌詞には、1996年当時(そして、それ以降は2年ごとに)、優勝トロフィーがイングランドに「帰ってくる(coming home)」かもしれないという悲哀と、逆境を越えて抱く希望が詰まっている。また、依頼を受けて制作され、成功を収めた楽曲の近年の一例は、シャキーラが2010年のFIFAワールドカップの公式アンセムとして発表し、大ヒットを記録した「Waka Waka (This Time for Africa)」だろう。そのアフロポップのグルーヴは独自の魅力を放ち、シャキーラの代表的なヒット曲となった。FIFAが2026年のワールドカップのテーマソングで再び彼女を起用し、バーナ・ボーイとタッグを組ませて「Dai Dai」を制作したのも当然のことだろう。

選手が曲になるとき

ラップで名前が挙げられることは、もはや名誉の証となっている。Stormzy、デイヴ、AJトレーシーらが率いるUKラップ界のヒーロー世代は、歌詞でサッカー界のスターたちへの敬意を表する絶好のチャンスを滅多に逃さない。一方、史上最高の選手(GOAT)であるリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドは、バッド・バニー、ケンドリック・ラマー、ドレイクから称賛された。ディディエ・ドログバは、Afro Bによるバイラルヒットとなったアフロビーツとラップのクロスオーバー曲「Drogba (Joanna)」にインスピレーションを与えた。また、ベルリンのルチアーノは、アルジェリア代表キャプテンのリヤド・マフレズを「Roli」でたたえ、「Skurt Cobain」では、フランスのMC、Sneazzyが同胞のジネディーヌ・ジダンを称賛した。ラップ以外では、アイルランドのカントリーポップスター、CMATに拍手を送りたい。スキンヘッドの人物について言及する必要があったとき、彼女がイメージしたのは? 2023年にリリースした同名の曲に登場する、バイエルン・ミュンヘンの監督、ヴァンサン・コンパニだった。

…そして、選手がマイクを握るとき

監督の厳格な戦術だけでは満たされず、よりクリエイティブな表現を求めるあまり、自ら音楽制作に踏み出す選手もいる。オランダのレジェンド、ルート・フリットが、1984年にリリースしたレゲエポップのシングル「Not the Dancing Kind」以降、音楽活動を継続することはなかったように、プレーの合間のちょっとした気分転換に終わる場合もあるが、より長く音楽活動を続けている選手もいる。ポルトガルはラファエル・レオンが自身のラッププロジェクトであるWAY 45で見せるあふれんばかりの自信をワールドカップに持ち込んでくれることを期待し、オランダはチームの象徴的存在であり、ラッパーでもあるフォワードのメンフィス・デパイに同じ思いを寄せているだろう。しかしながら、スタジアムからスタジオへの転身で最も成功を収めたのは、元レアル・マドリードのユースチームでゴールキーパーとして活躍したフリオ・イグレシアスだ。怪我によって断たれたサッカー選手としての彼のキャリアは、後に1億5000万枚以上のアルバムを売り上げる原点となった。

ゴール! さあ音楽の出番だ!

チャントが自然発生し、広がっていくのに対し、ゴールセレブレーションで流れる曲はあらかじめ決められていることが多い。「天国と地獄」(バイエルン・ミュンヘン)から、ブラーの「Song 2」(ユヴェントスやフランス代表など)、そして、レアル・マドリードのために制作され、クラブのイメージ通りの壮大な「Hala Madrid ...y nada más」まで、今では世界中のスタジアムのPAシステムから、さまざまな歓びの歌が大音量で流されている。それらは、VARによる判定にしか打ち砕かれることのない、瞬間的な多幸感を呼び起こす曲だ。 2022年のワールドカップでは、FIFAが出場国に対して、ゴールセレブレーションのための曲を決めるよう求めた。イングランド、ポーランド、スイスは、いずれも同じイタリアン・ユーロダンスの定番曲であるGALAの「Freed From Desire」を選んだ。すでにスタジアムで人気のアンセムとして定着していたことを考えると、これは無難な選択だった。そして、サッカーにおける最も本質的な音楽の瞬間は、いつだってファンによって生み出されるものだということを改めて証明するものでもあった。